まるで本物の騎士伝説を見ているかのような、重厚な映像。
見えないことを畏れない、陰影が強く、闇が取り巻く視界。
どこを切り取っても、絵画のような美しさだ。
原作はアーサー王の円卓の騎士の一人、ガウェイン卿にまつわる物語「サー・ガウェインと緑の騎士」。ガウェインの母が、モルガン・ル・フェになっていたり、いろいろアレンジされている。
まだ騎士ではないガウェイン(デヴ・パテル!名キャスティング)は、怠惰な毎日を送っている。クリスマスの日、おじであるアーサー王の宴に行くと隣席に招かれる。ガウェインのことを知りたいというアーサー王だが、彼にはまだ語るべき逸話、冒険譚はない。そこへ、木々をまとった異様な姿の緑の騎士が訪れ、アーサー王たちに首切りゲームを申し出る。自分と勝負し、一撃を加えられたら戦斧と称賛を与えよう。ただし、一年後、その者は自分を探しだし、同じ一撃をあまんじて受けよ、と。
ガウェインは、名乗りをあげ、緑の騎士に誘われるまま首を切り落とす。しかし、緑の騎士は首を拾い上げ、高らかに笑いながら城を後にする。
そして一年後、ガウェインは、母から帯を授けられ、緑の騎士を探す旅に出ることになる。
遊んで暮らしている放蕩息子が、いやいやながら旅に出て、いろんな人に出会って苦労し、という話だが、旅立たせるのが母というのは現代的かもしれない。
厳しい旅に出発させる一方、加護も与える二面性が描かれる。
ガウェインは、ちょっと頼りないところのある若者で、デヴ・パテルがいい感じに演じている。なんとなく助けてくれる人が多そうなタイプにみえる。
緑の騎士の元にたどり着き、ガウェインは相手の刃の前に身をさしだせるのか。
ちょうど前後して見ていた『鎌倉殿の13人』にも雪の大階段で、刃の下に自らをさしだす場面があった。
両方ともイエス・キリストの受難のイメージをひいていると思う。『グリーン・ナイト』はキリスト生誕を祝うクリスマスから始まるし、『鎌倉殿の13人』はタイトルからして13人目のユダ、裏切り者をしめす物語だ。
そんなイメージを重ねられて相手の刃を受け入れることは、誇り高い行為として描かれる。鎌倉殿では皮肉な真相が語られたが。
物語の手触りはとても上等で、中世絵画のよう。
とにかく美しいシーンがつるべ打ちで、気の抜けたシーンがない。
こういう映画が好きならぜひ映画館で見てほしい(画面も暗いので)。
本作では取り上げられなかったが、私が好きなガウェインのエピソードも書いておく。
「ガウェインの結婚」
ある時アーサー王は、自分の領土を邪悪な騎士に奪われ恋人を捕虜にされた、という一人の乙女の訴えをきく。その城におもむいたアーサー王だったが、城には呪いがかかっていて、あっという間に動けなくなってしまう。アーサー王は命乞いをし、邪悪な騎士は、ある問を出すので一年後その答えを持ってこれたら、許してやろうという。その問とは
❰すべての女性がもっとも望むことは何か❱
命からがらもどったアーサー王は、さまざまな女性に聞いてまわるけれど、答えがばらばらで、困ってしまう。一年が過ぎようという頃、アーサー王は醜い老婆に出会い、答えを授かる。さて、その答えとはー。
しかし、タダでとはいかない。老婆の望みは若くて立派な騎士を夫とすることだった。アーサー王は、だれにも頼めず沈みがちになるが、それに気づいたガウェインは、事情を聞いて、それなら私が夫になりましょうという。
実際結婚してみると、醜い老婆は呪いのせいでその姿になっていたとわかる。若くて立派な騎士と結婚したことで、呪いはとけ、半日は元の美しさを取り戻すことができた。
妻はガウェインに尋ねる。昼の時間と夜の時間、どちらを美しい姿にしましょうかと。
さて、ガウェインは、なんと答えるのか。そして妻の返答は?
つづきはこちらにくわしいです。