物語と映像が、見事に織合わさっている。
今年ベストかも。
監督は石川慶。
他人の人生を騙り死んだ男(窪田正孝)の過去、その家族、それを探る男(妻夫木聡)の今、というウェットになりそうな題材をドライに、でも冷たくならず撮っている。
稀有な作品だと思う。
冒頭のマグリットの絵、接見室の後ろ姿、トンネルを歩くと照明の切れ目で顔が見えなくなり、また見えるようになる場面。
繰り返し現れる顔の見えない男のイメージは、死んだ男であり、その過去を探す弁護士の男であり、われわれでもある。
人生は一人の人間による連続体のように思われがちだが、その時々一緒に過ごした他の人たちの人生のパッチワークのようでもあると、本作を見て思った。
死んだ男Xさんの人生は、林業をして妻(安藤サクラ)と出会い、一緒になって、妻と子供たち、また共に働いていた人たちの人生の一部になった。
名前は違っても、その事実がなくなることはない。
翻って、妻夫木聡演じる弁護士も、名前をなくしてしまいそうになる。思っていたのと、実態が違う人生。こちらは、名前ばかりで事実があやふやになるような感じだ。
最後、彼はなんと答えたのだろうか。
わたしがこの映画で好きなところは、それぞれの人物にこれまでの人生と、これからの人生の積み重ねが感じられたことだ。どうしてそんなことをいうのか、そんな表情なのか、物語の要請ではなく、その人の人生があるからその振る舞いをし、そう話すというふうに見えた。
画面の外でも、その人の時間が流れていて、そんないくつもの人生の、ある男(Xと弁護士)と一緒に過ごしたところが映画になっているみたいだ。
それは、本作のテーマそのものでもある。
上映時間以上の時を内包した、とても豊かな映画だと思う。