ときよとまれ

みたもの、きいたものなどのまとめブログです(映画、演劇、展覧会 感想備忘録)

大将のおまかせで 映画「アーガイル」

スーパースパイ「アーガイル」の活躍を描く小説で人気の作家エリー・コンウェイは、次の作品の最終章に行き詰まっていた。アドバイスをくれる実家の母のもとにに向かったエリーは、途中自分のファンだという男に出会う。彼は自分は実際のスパイだと名乗り、彼女があるスパイ組織に狙われているという。そして襲ってくる敵から彼女を救い、逃避行がはじまる。

 

映画は多かれ少なかれ、大将、あるいはシェフのおまかせコースで、見てみるまで、何が出てくるのかわからないところがあるが、本作はマシュー・ヴォーン大将の好きなものがつまったコースのように思った。

時代がかったスパイ作戦、荒唐無稽なアクション、カラフルなスモークと暴力、「キングスマン」など、マシュー・ヴォーンの映画が好きな人は、大変楽しめるだろう。話の運びはあらっぽいし、勢いで押しきられているような気もするが、大将の味がよく出ている。

後半にあるスケートアクションシーンが、大変気持ちよく、あれを見られるだけで、満足な映画であった。

 

 

 

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人間的であろうとする男性がホモソーシャルを降りる話 映画「アパートの鍵貸します」

保険会社のサラリーマン、バディ(ジャック・レモン)は、不倫の情事用に既婚の上司たちに自分のアパートを貸している。よい評価、出世と引き換えだ。しかし、新たに部屋の貸し出し先に加わった人事部長のお相手は、バディが思いを寄せるエレベーターガールのフラン(シャーリー・マクレーン)だった。

 

ネタバレを含みます。

タイトルのとおり、今見ると、人間的であろうとする男性が、社内の女性をいっときの情事の相手としか見ず、下位の男性には無理な奉仕をさせる会社の上司たちの男社会(ホモソーシャル)を降りる話だと思った。

主人公のバディは、出世を目指して上司に取り入ろうとするが、貸し出した後の散らかった部屋をてきぱき片付け、酒やクラッカーの注文に応じ、貸し出しのリスケジュールも丁寧、料理や看病もできる、ケアのできる男性である。

そんな彼に対し、上司たちは寝ていてもたたき起こして部屋を借りようとするし、熱があるといってもキャンセルさせない。約束したんだから守れと言い張り、バディの体調など無視する。都合のよい男扱いである。

フランは既婚者である人事部長が、過去にもさまざまな女子社員と関係し、離婚をにおわせても決してしないと知り、絶望して自殺未遂する。部屋に倒れていたフランをバディは介抱し、医者を呼び、励ますが、恋人である人事部長はやって来ることなく、面倒事はバディにまかせ、それでいてフランが元気になると別れたくないという。都合のよい女扱いなのだ。

 

自分たち権力のある男には融通しあい、それ以外を搾取する上司たちに気に入られて、バディはかなりの出世をするが、最後それを捨てて、自由になる。フランを大切に思うからでもあり、えらくなったところでアパートを貸す役割の者として利用され続けるのに、NOを突きつけたのだ。

 

途中、隣人である医者が、物音からバディがいろいろな女性を連れ込んでいると誤解して(実際は上司たちの逢瀬の音)、「ちゃんとしろ、人間になれ」というが、会社の男社会(ホモソーシャル)のなかでは、人間ではいられない、そこからはずれて人間的に生きるということなんだろう。

 

コミカルでちょっと悲しくて、しかしハッピーエンドの素敵な映画だった。

 

 

 

 

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錦糸町でも飲めばいいのに平山さん 映画「PERFECT DAYS」

わたしは、あまり好きではなかった。

つつましく暮らす役所広司なら「すばらしき世界」の方が、わたしは好きだ。

 

 

以下、気になったところを書くので、この映画を好きな人は用心されたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本作「PERFECT DAYS」は広告映画だと思う。

なんの広告かというと、渋谷区の「ナイスデザイン」トイレ、そして清掃員として、つつましく、穏やかに暮らす「日本の人」である。

 

ユニクロの経営者、柳井さんがプロデュースしたトイレプロジェクト、その映画化と聞いて、広告映画なんだろうな~、と思い、でも評判いいし、見たら意外によいかも、と思ったが、別方向からいろいろ気になってイライラした。

映像や、役者の演技、空気感などは、とてもいい。

しかし、画面から排除されたものが、わたしには気になった。

 

主人公、トイレ清掃の仕事をしている平山はスカイツリーの程近く、亀戸七福神をまつる神社近くのアパートに住んでいる。浅草に飲みに行く。

わたしは、そのあたりに土地勘がある。下町でたしかに映画で描かれたようなところもあるが、多国籍な街でもある。中国や韓国など外国にルーツのある人も多く住むし、浅草は観光客もとにかく多い。商店街には、食材の輸入品店や、いわゆるガチ中華なども並ぶ。わたしは、昔ながらの下町風情とアジアのマーケットみたいな活気が、このあたりのおもしろさだと思っている。

 

しかし、亀戸浅草の多国籍なところはまったく撮されない。渋谷区ではトイレ清掃中に黒人女性に使い方を聞かれたりするが、亀戸、浅草では外国にルーツのある人は出てこないのだった。

また、平山さんが住んでいるアパートからは錦糸町も近いのに、なぜ錦糸町で飲まないのか。なぜ、亀戸から浅草に行くのに、吾妻橋ではなく、やや遠回りな桜橋を使っているのか。

 

錦糸町の猥雑さは、この映画の「日本らしさ」にそぐわないからか? また、川を渡るルート選定は、吾妻橋のたもとにあるアサヒビールの金のオブジェを見せたくないのかな、など、そこに実際にはあるはずなのに、なぜか見えなくされてるものの存在と、そうした意図を強く感じてしまった。

 

作中で、車や自転車を走らせる場面も、見知った場所だとカットのつながりに違和感があったりする。前のシーンと違う方向から走ってるような?

 

そんなこんなで、渋谷区のトイレも、きっと同じように、見せたくないものは入念に除いて、撮影したのだろうと思ってしまう。

田中泯演じるホームレスが登場するが、渋谷区はミヤシタパークの開発時にホームレスを排除したり、公園の夜間立ち入りを禁止したりしていたので、ああいうブルーシートハウスは、もう現実にはないのではないか。このあたりも、いびつに感じる。

 

わたしがこの土地を一度も訪れたことがなかったら、よく知らなかったら気持ちよく見られただろう。

他の知らない土地や人、出来事を描かれた映画でも、同じようなことが起きているのだろうな、知らないから気分よく見られているのだろうな、と、ちょっと怖くなった。

 

xtrend.nikkei.com

 

www.perfectdays-movie.jp

wwws.warnerbros.co.jp

 

 

 

チュ・ジフン七変化 映画「ジェントルマン」

捕まった探偵が、自分が巻き込まれた事件について語り始めるが、嘘発見器の判定は「嘘をついている」。二転三転する事件の真相は?

 

チュ・ジフンの魅力たっぷりのコンゲームもの。

悪役の造形が、韓国社会を反映しているようで面白い。

犬もかわいい。

気楽にみられる娯楽作。

 

 

klockworx-asia.com

最高です、ソクト刑事 映画「犯罪都市 NO WAY OUT」

シリーズ第三段。

今度の敵は、日本のヤクザと、癒着した汚職刑事。

ハイパーと呼ばれるドラッグが日本から持ち込まれ、広がってしまう。マ・ドンソク演じるソクト刑事は、事件を追い始めるが、薬は、暴力団横流し品で、東京の組長はその回収と横流しした組員、そして韓国の密売パートナーの片付けのために、殺し屋を送り込む。

かくして、日本のヤクザ、送り込まれた殺し屋たち、韓国の薬密売パートナー、そしてすべてを殴り倒すソクト刑事の攻防が始まる。

 

今回の敵もかなり凶悪で、やたらたくさん出てくるのだが、もうマ・ドンソクがいれば、どんなに凶悪な犯人もどうにかなるので安心してみられる。悪人が、最後まで強気なのが、スカッとする見心地のもとだと思う。

細かい笑いがちりばめられていて、サービス精神旺盛。アクションシーンもたくさんあって、今回は刀対拳が見物だった。

今回も殴るときの音がすごくて、映画館で見られてよかった。

 

tokiyotomare.hatenablog.com

 

 

 

hanzaitoshi3.com

音楽が希望になる 映画「シング・ストリート」

不況のアイルランド、離婚秒読みの両親、学費が払えず荒れた学校に転校した主人公は音楽と友達と出会い、恋、自由、未来を夢見るようになり、行動を起こしていく。

 

監督の自伝的映画で、当時の音楽がたくさん使われる。主人公が新しいバンドにハマるたび、自分たちのバンドのビジュアルも変わるのがたのしい。

さわやかな青春譚だが、アイルランドの状況が通奏低音として響く。

 

 

 

 

gaga.ne.jp

時間がたくさん含まれる映画「瞳をとじて」

前半、けっこう寝てしまった。

つまらない訳ではなく、心地よい。

一瞬たりとも目が離せない、緊張が続く映画とは違い、寝ても許してくれそうな感じがした。

 

もと映画監督の作家は、ある映画の撮影中に失踪し、今も行方のわからない俳優を探すため、テレビ番組にでる。俳優の娘や映画仲間に会い、さまざまなことを話す。やがて、いなくなった俳優に似た人がいると情報がよせられるが。

 

作中作の映画の質感、なんとはないカフェでの会話、主人公が犬と暮らす海辺のトレーラーハウス、部屋に差す光。

人生の時間は豊かに流れていく。

せかせかした気持ちとは対極にあるような、時間の豊かさ、映画への信頼がつまった映画だと思った。

 

 

 

 

 

gaga.ne.jp