敵とは、男性中心の社会の構造。女性や弱い立場の人が、告発を怖れ、諦め、沈黙するのか「賢い選択」「合理的」「よし」とする社会の造りである。
本作は良くできた映画だが、原作にはあったその射程が失われているように思った。
記者たちの奮闘、口の重い証言者たちのためらいと、振り絞られる勇気、とても力づけられるし、印象的なシーンも多数あり、性的加害シーンを被害者の証言で描くやり方、また告発を受けるワインスタインの顔を見せない演出など、よいところはたくさんある。
ただ、2023年の映画としてはシンプルすぎるかもしれない。
#Me Too 以後、性的加害と被害をめぐる視野は大きく変わったが、法律や制度はどうだろうか。ここまでワインスタインを野放しにしてきた社会制度や慣習はどれほど見直されているだろうか。
個人の活躍や勇気ある告発で終わるのではなく、社会の隅々に行き渡った支配層の男性優位の仕組みが変わるか否か。
そこまで見せてほしかった。
『スポットライト 世紀のスクープ』も同じようなテーマを扱っていて、記者たちの奮闘を描く。