ときよとまれ

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てっきり食◯映画だと思ったのに、接客業の恨み映画だった『ザ・メニュー』

予約至難の孤島のレストランにやってきたお金持ちのゲストたち。

シェフ(レイフ・ファインズ)とスタッフの様子は奇妙だが、傲慢なゲストは、自分達はもてなされるはずと思いこんでいるので、異常に気づかない。

ただひとり、本来なら今夜のディナーにふさわしくない客マーゴ(アニャ・テイラー・ジョイ)を除いて。

 

 

 

以下ネタバレ

てっきりイカれたシェフにゲストが次々調理されてしまう食人グルメスリラーかと思ったら、接客・サービス業従事者が、金を積めば際限なき献身を求めていいと思っている金持ちたちに報復する物語だった。

 

 

全体的に中途半端だったと思う。料理はトップシェフ監修のとても素敵なものだったが、テーマ的を考えるときれいすぎた。

途中、ニコラス・ホルト演じるシェフのファンのグルメマニアが、では君も料理したまえ、といわれて厨房に招き入れられるシーンでは、本当は一緒にくるはずだったパートナー(彼女にはフラれてマーゴがエスコートサービスとして雇われた)が食材として提供されたりするのかな~、と思ったが、下手な調理をプロの料理人にガン見されるだけに終わった。

 

もっとも引っ掛かったのは、「男のあやまち」と名付けられた一皿を用意したにも関わらず、ジェンダーの非対称性、権力の勾配を無視して、「平等に」ゲストに罰を与えたところだ。

関係性にもよるが、夫婦や愛人兼秘書の女性サイドは、対等なパートナーというよりは社会的立場の弱さや経済的不利により、男性に雇われ、金でしばられているも同じだったりするのではなかろうか?

それは接客業とも通じると思うのだが、本作では与える側/奪う側の線引きがとても単純であり、一見配慮されているようで、浅薄に思えた。

 

男性が鬼ごっこしている間、一皿余計に料理が食べられるくらいでは、女性の不利益は相殺されるわけがないのだ。

 

同様に、シェフ/スタッフ間の権力構造についても深くは触れられず、シェフ自身がゲストの金持ちたちとおなじように終わりなき献身を部下に求める奪う側なのでは、とも思った。

 

搾取されてきた者は、報復できる権力を持つようになる頃には、他の誰かを搾取してしまっている、ということだと思う。

そこに無自覚なストーリーだったので、カタルシスがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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