ときよとまれ

みたもの、きいたものなどのまとめブログです(映画、演劇、展覧会 感想備忘録)

くそ・まじめなはなし『せかいのおきく』

武家の娘ながら父が浪人になったため、今は寺子屋で子供たちに読み書きを教えているおきく(黒木華)、糞尿を商う下肥買いの矢亮(池松壮亮)、もと紙くず屋で矢亮の誘いで下肥買いになった中次(寛一郎)。江戸末期と思われる時代の、ままならない暮らしのなかでも煌めく青春の物語。

 

こんなに「くそ」に焦点があたった映画は珍しい。矢亮は江戸の長屋や武家屋敷を回って糞尿を汲み取り、農村に運んで肥料として売る仕事をしている。大きな屋敷でバカにされたり、農家で買い叩かれたりもするし、もちろん臭い。

しかし、長雨で汲み取りにこれなかったら、長屋の便所は溢れて、大変なことになる。その仕事を丁寧に丁寧に映画はうつす。矢亮は中次に、くそが世を回っている様を話す。以前、汲み取り式の便所の家に住んでいたので、大雨の日に(溢れることはないが)溜めるところに水が流れ込んでちゃぷちゃぷしてくるのに、親近感があった。

 

矢亮も中次もうだつは上がらないし、おきくは父を失い、声を失う。

しかし、三人の、また彼らを取り巻く人々の「生きていること」自体の光、感情の高まりや落ち込みは、どんな状況でも奪えないものなんだなぁ、と感じさせる。

基本的にモノクロだが、一瞬カラーが挟まり、印象を鮮やかにきめる。

 

 

 

 

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