ときよとまれ

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「ちゃんとしてる」と落ちる罠 映画『波紋』

ある日、依子の夫は失踪する。依子は夫の父を介護し見送り、息子を育て、新興宗教に入信し、スーパーマーケットのパートで働く。

そして数年が経って、夫が突然もどってくる。ガンだという。久しぶりに帰省した息子は耳の聞こえない恋人をつれてきた。

依子は、パートの同僚とのやりとりのなかで、自分の気持ちを探っていくが。

 

怖い映画だった。

早く出ていけばいいのに、と思っていたが、依子自身の中に、抜き差しならぬ「こうでないとならない」「普通は」「ちゃんとしないと」という規範が渦巻いていて、夫にも息子にも義父にも正面きってキレ散らかしたりできない。

新興宗教で、気持ちを落ち着かせる水を買うが、落ち着かせる必要はないと、わたしは思う。

ガンだからといってすり寄ってきた夫など、怒って追い出してしまえばよいのだか、主人公はそうしない。

 

抑圧に従い我慢する人は、抑圧し我慢させる人でもある。依子の、息子の恋人に対する態度と言葉、でも息子には直接いわないのは、愛情であり家父長制の序列にしたがってのことでもあるだろう。

 

夫が死ぬまで家を飛び出すことができなかった彼女が、映画のラストシーンの後、どこまでもさすらってほしいと思った。

 

 

 

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