すごい面白く、洗練されていて、遠くから撃ち抜かれるよう。
上映期間が短いので、興味があれば素早く見に行った方がいい。
ボールドウィンの言葉が重い。
業界最下位の放送局の新企画は、大統領選前の共和党、民主党の党大会にあわせ両陣営の論客を生番組で討論させるというものだった。
保守のウィリアム・F・バックリー(デヴィッド・ヘアウッド)vsリベラルのゴア・ヴィダル(ザカリー・クイント)、二人の舌戦は視聴者を熱狂させ、また二人も互いの言葉に白熱していく。
いまに繋がるテレビと政治、言論と民主主義の問題を鋭く、そして驚異的に面白く描いている。
まるでボクシングのようなテンポのよい二人の言葉のやり取りを、興奮しながらみていると、ゴア・ヴィダルの友人で作家のジェームズ・ボールドウィンの言葉が突如、突きつけられる。
「議論を楽しんでいるか?と聞かれた」
「自分の存在をかけて、尊厳と幸福のために話しているのに、何をいわれているかわからなかった。」
「でも今はわかる。議論をしている者たちにとっては、抽象的なことなのだ。」
自身の存在をかけて発された言葉と、安全なところから議論を楽しんで発される言葉が、同じように飛び交うテレビ討論会。
それを楽しむ者たち、する方にも見る方にも、この言葉が重く響く。
最近読んだ作家、桜庭一樹による『トランスジェンダー入門』(周司あきら、高井ゆと里共著/集英社新書)の書評にも通じるその問題について切実ではない者たちの議論の特権性、無自覚を見つめなければならない。