ときよとまれ

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ボーダーを越えて行け『木ノ下歌舞伎 勧進帳 2023ver.』

歌舞伎や能など日本の古典演劇をもとに、現代劇の役者が現代の身ぶりで演じる木ノ下歌舞伎で、何度か再演されている「勧進帳」(アフタートークつきの回)を観てきた。

80分ほどでコンパクトで、古典を知らなくても、知っていても面白い舞台だった。

 

兄の頼朝に疎まれ、逃亡中の源義経と弁慶たち。弁慶たち家来は山伏、義経は合力(荷物もち)に変装して東北に向かうが、すでに関所が築かれ、変装のことも知られていた。関所を守る富樫と番人たちは、弁慶たちを取り調べる。奈良の寺の建立のため寄付集めに諸国をまわっていると弁慶は話し、疑う富樫は勧進帳(寄付の趣旨を書いたもの)を読むようにいう。弁慶は白紙の巻物を手にして、勧進帳の文面を読み上げる大芝居を打つが。。。

 

細長い舞台で、両サイドに客席がある。

関守の富樫、義経、弁慶以外のキャストは、関所の番人と義経の家来を兼ねて演じており、人数は少ない。

同じ時間を両陣営からカットバックで行きつ戻りつして描いたり、照明でラインをつくったり、主従の一線と絆をラップで表現したり、関を越えられるかどうかという物語のテーマに、いろいろなボーダーが重ねられている。

義経トランスジェンダー女性の高山のえみ、弁慶にアメリカ人のリー5世など、社会や文化のボーダーを越えたキャスティングも意図しているとアフタートークで語られていた。

 

本作品、主人公は関守の富樫(坂口涼太郎)なのだろう。もっとも気持ちの変化が大きい。

最後のピクニック宴席の場面は、なんだかわからないが、心が揺さぶられた。

どっさり飲み物とお菓子を買って、山伏たちを宴席に誘う。部下の番人たちとは打ち解けなかった富樫が、弁慶とのやりとりで開かれていき、自分からボーダーを越える。

舞台に一人残った富樫の表情の移り変わり、とてもよかった。

 

東京のほか、全国でツアー公演があるそう。

 

 

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