写実絵画というと、若く美しい女性などを精緻に描くようなイメージがあったが、「眼窩裏の火事」で、最もよかったのは老ダンサーの裸体を描いた作品だった。
たるんだ皮膚、点在するシミ、皺深い顔、ぼんやり空いた口の闇。その人自身としての身体、存在として立ち上がる。
それに比べ、「若く美しい女」というのは、見る側の目のせいもあるが、存外記号化されたもので、つまらない。
本展のメイン作品で、満州からの引き揚げ時に命を落とした画家の祖母として描いているだろうに、「女の裸体」という大きな記号の方に回収されてしまうようだ。
しかし、「女の裸体」がなければ、あんなに客が来ないのかも、とも思う。
広告でもそうだが、多くの人に関心を持たせるための表現のドーピングが蔓延している。そこから自由になることはできないが、せめてそれが何かは自覚しておきたい。