宮廷生活に押し潰され、苛立ち疲れ果て、旅に出るオーストリア皇妃エリザベート。
宝塚のミュージカルでも有名な人物を、史実とはずらした作劇で描く映画。
エリザベートは疲れ、苛立ち、それでも自由を手に入れるため、もがく。
原題は『コルセット』であり、美貌で知られたエリザベートはスタイルを保つために、宮廷の豪華な晩餐会でも、ほとんど食べない。それは彼女の望みというより、皇帝である夫が帝国の象徴として彼女に変わらぬ美を求めていること、とりもなおさず国民も求めているからである。
映画『スペンサー』でも、王室のクリスマス食事シーンで「嬉しそうにしろ」プレッシャーと空虚さが描かれたが、こちらでも同じ空気が漂う。
エリザベートは、ヨーロッパを旅してまわるが、それでも満たされない。繰り返し、エリザベートは誰かが寝ているベッドにやってきて、連れ出したり、一緒に寝たり、話したりするが、彼女の孤独を埋められはしない。
と書くと悲しい話のようだが、エリザベートがあまりしおしおせず、他人を従わせることに躊躇なく、いけすかないところもある権力のある女として率直に描かれているので、さっぱりした見心地である。身分が高くても社会の抑圧にさらされ、なんとか抵抗しようとしては疲れはてる一人の女性が解放に向かう物語である。