ときよとまれ

みたもの、きいたものなどのまとめブログです(映画、演劇、展覧会 感想備忘録)

映画

静かな超能力バトル「イノセンツ」

ノルウェーのサイキックホラー映画。 ある団地に越してきたイーダは、重い自閉症で意思の疎通もできない姉アナのめんどうを見るよう言われ苛立っていた。休暇の時期で人は少なかったが、イーダは別の棟に住むベンと友達になる。一方アナもアイシャという友達…

寝込みを襲う虎のような女「エリザベート1878」

宮廷生活に押し潰され、苛立ち疲れ果て、旅に出るオーストリア皇妃エリザベート。 宝塚のミュージカルでも有名な人物を、史実とはずらした作劇で描く映画。 エリザベートは疲れ、苛立ち、それでも自由を手に入れるため、もがく。 原題は『コルセット』であり…

色気は男が出すもの 『仕掛人梅安』

藤枝梅安シリーズがテレビで放送されていると、つい見てしまう。 バイオレンス時代劇としてテンポよく面白い。 冒頭、ある仕掛け(殺し)の仕事で、父の仇と狙った浪人にとりこまれ、お稚児のように扱われている少年が出てくる。少年の母の依頼で浪人は殺され…

討論はこんなに面白い!『ベスト・オブ・エネミーズ』@ナショナルシアターライブ

すごい面白く、洗練されていて、遠くから撃ち抜かれるよう。 上映期間が短いので、興味があれば素早く見に行った方がいい。 ボールドウィンの言葉が重い。 業界最下位の放送局の新企画は、大統領選前の共和党、民主党の党大会にあわせ両陣営の論客を生番組で…

物語に身をゆだねて 映画「古の王子と3つの花」

現代のどこか、工事現場が見えるところで、語り手が聞き手に問いかける。 どんなお話がいい? 聞き手は好き勝手にこんな話!といっていき、語り手は3つのお話を語り始める。 古代エジプトのファラオの話、中世フランスの領主の息子の話、そしてトルコで国を…

一周まわったハッピーフェミニズム映画『バービー』

最初見たときは、フェミニズム最初の一歩的な内容だな、と思ったが、後からじわじわ、どこをめざしている映画かわかってきたような気がする。 バービーランドでとても幸せに暮らしている一般的なタイプのバービー(マーゴット・ロビー)は、ある日なぞの不調に…

「ちゃんとしてる」と落ちる罠 映画『波紋』

ある日、依子の夫は失踪する。依子は夫の父を介護し見送り、息子を育て、新興宗教に入信し、スーパーマーケットのパートで働く。 そして数年が経って、夫が突然もどってくる。ガンだという。久しぶりに帰省した息子は耳の聞こえない恋人をつれてきた。 依子…

大きな人形というだけで怖い『M3GAN ミーガン』

おもちゃの開発者である主人公は、両親が不慮の事故にあった姪を引き取る。深く傷ついた子どもにどう接したらいいのかわからず、気まずい毎日のなかで、子どもとコミュニケーションをとって、守り導く人形を開発し、姪に与える。 姪はミーガンに心を開き、明…

内省的なヒーロー映画「ザ・フラッシュ」

神速のヒーロー、フラッシュが過去の改変に挑み、あきらめを知る物語。 期せずして、『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』と同じテーマを扱っている。 運命(変えられない過去/未来)を受け入れるか、否か。 フラッシュは過去の自分とのやりとり…

お母さんハーレム映画『君たちはどう生きるか』

いろいろなタイプのお母さん、お母さん的女性が出てくる宮崎駿のハーレムもの。 半ば引退しているだけあって、趣味的な映画だと思った。 主人公は不思議な塔に招かれ冒険するが、主要な女性登場人物は母及び母的である。 火事で死んでしまったお母さん、父の…

話してるだけなのにスリリング『ウーマン・トーキング』

実話をもとにした物語。 ある朝目覚めると、身に覚えのない痣や傷、性器からの出血がある。年齢を問わず集落のほとんどの女性に同じことが起きるが、男たちは「思い過ごし」「悪魔の仕業」などと取り合わない。しかし実はそれは家畜用の強い麻酔を使った連続…

最後のパートはいらなかったのでは『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』

テレビドラマで好評の岸辺露伴シリーズの映画版。 若かりし日の露伴が、ある女性から教えられた❰世界で最も黒い絵❱。 その因縁に導かれ、ルーブル美術館へ行くと、奇怪な事件が起こる。 それは絵の呪いなのか。 ルーブル美術館の映像も美しいし、ただ者では…

こうでなくちゃ『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(字幕版)

「アベンジャーズ」と合流していたときの悲しさ、二者択一的な考えは、すっかり忘れて、ガーディアンズらしさを取り戻した本作品。 とても楽しかった。 事実上の主人公はロケット。アライグマの姿をした彼の壮絶な過去があかされる。 ロケットを創造した者た…

過去を清算する一手は? 『カード・カウンター』

長く刑務所にいた男(オスカー・アイザック)は、刑務所で覚えたカウンティングで、カジノを渡り歩き、少なく賭けて少なく勝つポーカープレイヤーとして暮らしていた。カウンティングは、配られたカード、オープンになったカードから、これから出るカードの確…

運命(正典:カノン)にあらがえ 『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

最高の映画! 絵が動く=アニメーションを観る快楽が、みっちり詰まっていて、語られる物語もとても好き。 「スパイダーマン」が映画化され、リブートされ、さらにリブートされ、アニメーションにもなっても、すべてのスパイダーマンが逃れられなかった運命こ…

ちょっと脚本が弱い 映画『告白、あるいは完璧な弁護』

不倫相手を殺害した疑いをかけられているIT社長(ソ・ジソブ)、彼の妻の父が雇った敏腕弁護士(キム・ユンジン)、二人は雪の山荘で、無罪を勝ち取るために、状況を確認し始める。 しかし、その事件の前に、もうひとつの失踪事件があることが、次第に浮かび上が…

ノーカントリーフォーチルドレン 映画『怪物』

罪は描くが、罰は描かない。 責任が雲散霧消していく日本的な映画だと思った。 以下ネタバレかもしれない。 ここはあの子達が生きていくのに適さないところ。 なのはわかるのだが、 でもその責任は、不用意な行動発言を繰り返す大人たちや、❰素朴で無邪気な❱…

女を利用して財を成し、その分女に徴収される『マルサの女』

初めて見た。 とても面白かった。 タイトルが出るまで、ラブホテル経営者、権藤(山崎努)がさまざまな女性を利用して金をもうけ、脱税していくようすがテンポよく描かれる。 そして、タイトルが出た後、マルサの女こと税務署の調査官、板倉(宮本信子)が現れる…

楽しいゲームを映画にするには『スーパーマリオブラザーズ ムービー』

イタリア系アメリカ人の配管工兄弟マリオとルイージは、大家族で暮らしている。親からは侮られがちで、ゲームで現実逃避することもある。そんな親しみのわく主人公たちが、地下のトンネルから、不思議な世界に迷いこみ、ピーチ姫とともにクッパ大王と戦うこ…

映画にぴったりの生き物、それはロバ『EO イーオー』

『イニシェリン島の精霊』は助演ロバ映画だったが、本作はロバが主人公をつとめる。サーカスで、パフォーマーの女性に可愛がられて暮らしていたロバEOは、動物保護団体に「保護」されて以降、牧場、処分場、サッカー場、貴族の邸宅などを遍歴する。 終始ロバ…

くそ・まじめなはなし『せかいのおきく』

武家の娘ながら父が浪人になったため、今は寺子屋で子供たちに読み書きを教えているおきく(黒木華)、糞尿を商う下肥買いの矢亮(池松壮亮)、もと紙くず屋で矢亮の誘いで下肥買いになった中次(寛一郎)。江戸末期と思われる時代の、ままならない暮らしのなかで…

藤枝梅安と似てるのかも 映画『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』

『仕掛人・藤枝梅安2』と同じく、こちらも殺し屋二人組×2の物語。 前作で女子高生殺し屋だったちさと(高石あかり)とまひろ(伊澤彩織)は、卒業後も腕利きの殺し屋をしながら、ジムの会費を延滞しすぎて数百万にふくらますなど、だらだらした毎日をおくってい…

映画『search/#サーチ2』

失踪した母の真実を追う娘の物語を全編PC画面上の映像で描く。 FaceTime、チャット、Google翻訳、リアルタイム配信映像、監視カメラ、ウーバー、何でも屋。無数のインターネットサービスが駆使されるきもちよさ。 コロンビアでいなくなった母の足取りを追う…

社会が蜘蛛を蔓延らせる『聖地には蜘蛛が巣を張る』

宗教都市を舞台に、娼婦たちと、彼女らばかりを狙う殺人者と、事件を追う女性記者を描く。社会に根付くミソジニー(女性嫌悪)と、それを許しているのは誰なのか。日本に共通するところも多い。 娼婦たちの境遇も、殺人者が社会の役に立っていると抗弁して、そ…

今度は特撮だ!『映画刀剣乱舞-黎明-』

前回の映画、継承は本格時代劇だったが、今回は特撮に振り切った映画だった。 脚本は緩めで、テンポもいまいちだが、キャラクターの魅力で押し通す。 そんな映画である。 時の政府に搾取されまくりの審神者が、社会に見過ごされた子供たちと邂逅するのに、こ…

がんばれエスター!『エスター ファーストキル』

スリラー映画『エスター』の前日譚。 前作もとても面白く、さくっと見られるので、『エスター』を見てから、こちらも見るとよい。 前作を見た人は、よりエスターに感情移入できる巧みな脚本と演出。 なぜかエスターを応援したくなってしまう。 怖いのが大丈…

だれにでもおすすめ! 映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』

こういうのが、いいんだよ! という絶妙な塩梅のエンタメアクション映画。 作り手が、たくさんの人に楽しんでもらえるよう細心の注意をはらって、それでいて とてものびのびと物語を紡いでいる。 テーブルRPG(TRPG )が原作だが、まったく知らなくても楽しい…

清々しいぞ 映画『ベネデッタ』

少女の頃に修道院に預けられ、信仰と共に生きてきたベネデッタは、あるとき神のヴィジョンを見て、聖痕を授かる。 それは偽りか真か。 近世の修道院生活を見ているだけで、だいぶ楽しい。 ベネデッタは、修道院に逃げ込んできたバルトロメオと親密になるが、…

消えた先人の影を追う 映画『オマージュ』

50年前に3作の映画を残し、消えた女性監督の映画フィルムを、3作目の興行も冴えず家事や婦人科系の病気に悩まされる現代の中年女性監督が探す。 とてもいい映画だった。 映画博物館からの依頼で主人公は、昔の女性監督の映画で、音声がない部分の音入れを請…

オスカーおめでとう! 全部入りマシマシ映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

いろいろな要素がものすごい量ごちゃごちゃ入っているが、なんだか渾然一体となってまとまっている。家族第一主義的なところはどうかと、ちょっと思うが、面白い映画だった。 以下ネタバレ。 1人の中年女性が、選ばなかった道、あり得た人生の数だけ分岐し…